公益財団法人日本手芸普及協会 Japan Handicraft Instructors’ Association

概要

OVERVIEW

画像

作家には誰しも、その後の方向性を運命づける「岐路」となった作品が存在します。

特別展示「MY FAVORITE PAINTING」では、今も最前線で活躍している12名の作家自身のターニングポイントとなった作品を展示、そこに込められた思いを語ったメッセージと共にご紹介いたします。

2022年10月に開催した第5回トールペイント日本展 同時開催 ペイント収穫祭2022の会場にて展示し、作家さんの想いに触れ「感動した」「思わず涙が出た」等、大好評だった「MY FAVORITE PAINTING」。

来場できなかった方々もギャラリーページでお楽しみください!

出展作家

大髙吟子 押見素子 河崎 香 川島詠子 くにおかまさよ 杉本幸子 鈴木慶子 出口むつみ バルーチャ美知子 古屋加江子 深山喜代美 森 初子 (敬称略・五十音順)

撮影 本間伸彦

会場展示の様子

画像

ペイント収穫祭2022にて

2022年10月に開催した第5回トールペイント日本展 同時開催 ペイント収穫祭2022にてコーナー展示を行いました。

画像

トールペイント日本展会場

画像

展示の様子

画像

展示の様子

WEB作品展

画像

MY FAVORITE PAINTING

マイ・フェイバリット・ペインティング

12名の作家自身のターニングポイントとなった作品(順不同)

画像

お針箱

大髙 吟子 / GINKO OTAKA

「これこそ、トールペイントの原点、私の原点」と思わせてくれる、生活の中で使えるソーイングボックス。
1991年10月、バニーコーポレーションで開催されたジョソーニヤMDAのセミナー。ペイント経験がまだ浅かった私は、海外の憧れの先生に直接習えるなんて!と、ワクワクドキドキしながら電車・バスを乗り継ぎ、2日間通った事を昨日の事のように覚えています。
それから31年間、ずっとこのソーイングボックスは我が家のリビングで活躍してくれています。一生懸命、丁寧に仕上げたこの作品は、今見てもその時のひたむきさに心が動かされます。リアルスティックではないデザインの中に、様々な質感の表現、毛糸、ボタン、針、服、メジャーなどなど、私はこの時に絵の具で質感を表現できる事を体験してトールペイントの奥深さを知り、ますます夢中になった記憶があります。そういう意味でも私の原点、愛おしい作品です。

画像

Mirror for washbasin (鏡)

大髙 吟子 / GINKO OTAKA

「デザインには役割がある。意味を持たせて、どこでどう使うか?」ちょっと意味深いこの言葉は、デコラティブペインティングの原点としてメリージョー MDAがおっしゃった言葉です。
20年以上前、カンザスの彼女の家を訪れた時に衝撃を受けたのは、インテリアに溶け込んだ彼女の作品の数々。ただの飾り物でなく、静かな音楽のような空気を醸し出しながら、ちゃんと役割を持ってそこに存在している。それまでただ色が好き、描きたい、という理由だけで、どこでどう使うのか?など考えた事など全くありませんでした。
このミラーは、11年ほど前に私の前橋スタジオの洗面台コーナーの役割の為に色を合わせ、だまし絵風に香水瓶を並べて描きました。上部には『上毛3山の夕焼けを見つめる猫たち』。東京の家でお留守番をしている三匹の猫が、もしスタジオにきたらどうなるのかな?という思いでデザインに描き加えました。

画像

A LETTER FROM EVERGREEN STATE

押見 素子 / MOTOKO OSHIMI

エバーグリーンステイトの針葉樹の森の緑は、夏の暑さにも冬の冷たさにも凛として耐え、ときには朝の燃えるような空の色を背負い、ときには抜けるような青空に映えてその存在感を示します。
常に揺るがない深い緑があることで、春の花々の色も、秋の紅葉も、信じられないくらい鮮やかに美しく人の心を打つのです。その緑は、全く変わらないように見えて、晩秋には古い葉をさらさらと大量に落とし、春には柔らかい新葉を枝の先に伸ばします。自らの内側では常に新しく生まれ変わり続けて大きく強くなり、周囲を包む優しさを身につけているのですね。
誰に気づかれずとも、静かに穏やかに自らを磨きながらただそこにいて、そして自分よりも周囲をより輝かせる存在に徹しているその頼もしく優しい姿は、弱い私の心の拠りどころだったような気がします。あの緑につつまれて暮らしていたころの思い、感動や決意をずっと忘れないように、私の心の奥にある風景を描いておきたいと思いました。

画像

と・も・に・・・

押見 素子 / MOTOKO OSHIMI

2011年、長い冬を越えやっと春!という3月、大きな深い悲しみに覆われ、日本中が自分の無力さに激しく打ちのめされました。
明日は来るのか、生きる意味はあるのか、誰もが胸を痛め、それまでの努力を否定して、今こんなことをしていてもいいのか、と自分の存在さえも疑い始めました。私自身も筆を持てず、何か月か過ぎた頃、以前にもただ癒されたくて描いた花の作品があったことを思い出しました。この花たちを集めて、ハートの形のリースにしてみたいと、筆が進むかもわからぬまま、被災地を思って祈るように描き始めました。
悩みながらも一筆ずつ、ゆっくりと薄い色を重ねていくうちに、あの頃も優しい色に慰められながら目の前の現実を受けとめられるようになったことを思い出し、描き終える頃には、私の気持ちも少し前を向いていることに気がつきました。
震災後初めて描いた作品です。
左右両サイドには優しい雨のように、涙の跡のように、光るラインを入れました。

画像

Couronne de couleur mauve

川島 詠子 / EIKO KAWASHIMA

2022年に発売した新刊「COFFRET AUX FLUER-コフレ・オ・フルール」の中でもフレームに花いっぱいのリースを描いたお気に入りの作品です。花はアンギュラーやフィルバートで描き、透明感やマットな質感を表現しました。
インスタグラムにこの作品の中のフィルバートで描いた薔薇をリールでアップしたところ、動画再生回数が15,000回となったうれしい作品でもあります。動画をSNSで発信することでペイントの楽しさを世界中の人々、そして様々な年齢の皆さんに伝えることができるのではないか…と奮闘中です!

画像

Rose pourpre

川島 詠子 / EIKO KAWASHIMA

このBOXは新刊本「COFFRET AUX FLUER-コフレ・オ・フルール」のタイトルにもなった「コフレ~宝石などを入れる小箱」のメインともなる作品です。
花はフィルバートで描き、川島シーラーの透明感やカラーティッピングの筋を楽しんでもらえるように描きました。素材は製図から描きおこし、オリジナルで制作してもらったお気にいりの正方形コフレ…花柄のラッピングペーパーで包んだプレゼントのようなデザインにしました。お好みのリボンをかけて飾っておくとさらにかわいいさが増します。リボンをかけても描いたお花が見えるように角を華やかにしました…大切なものを入れて飾りたいと思っています。

画像

Santa Clause is coming tonight

くにおか まさよ / MASAYO KUNIOKA

1998年に描いたアクリル絵具での作品で、初めてペイントクラフトに掲載して頂いた思い出深い作品です。
確か、クリスマスのリース作品と言うテーマでの依頼でした。素材も自分でカットし、留学中のホストファミリーを思い出しながらデザインし描きました。今見直すと、色使いとかテクニックとか、まだまだだなぁと思うところも沢山ありますが、依頼された時のワクワク感を忘れないように、いつも見えるように飾っています。

画像

扇子

くにおか まさよ / MASAYO KUNIOKA

2015年に日本手芸普及協会主催の目黒雅叙園(現:ホテル雅叙園東京)でのイベント「手芸で創る美の世界 at 百段階段~華やぎ」に参加するために描いたアクリル絵具での作品です。各々の作家が扇子をイメージした作品を描くというコンセプトだったと思います。多くの人が憧れるストロークローズですが、西洋の家庭に合うデザインとして多くの人が洋風に描かれる中、従来の日本の家にも似合う和風の作品として私が初めてデザインした作品です。

画像

アリス イン ワンダーランド

杉本 幸子 / YUKIKO SUGIMOTO

この作品は、伊藤先生が長い闘病生活の末、亡くなられる寸前にセミナー予定で作成された図案です。セミナーは残念ながら実現出来きず、先生は帰らぬ人となりました。
私が今もトールペイントを続けられているのは、先生との出会いがあったから。
ご自宅教室に友人と伺った時、初めて出会った先生は可愛いクマちゃんの絵とはちょっと雰囲気の違うスタイリッシュな女性。「描きたい作品がどんどん湧き上がってくるの」と、楽しそうに話してくださいました。脚が長くてかっこよくて…でも内面はお茶目で可愛い、そんな先生とたくさん笑った事を思い出します。
長い間、先生のアシスタントを務めさせて頂いていた私は深い悲しみから抜け出せず、なかなか立ち直れませんでした。そんな時、先生を通してできた沢山の仲間や生徒さんたちの温かい励ましを受け、先生を偲ぶ形でこの作品のセミナーを私が開催すると事となった思い出の作品です。

画像

アリスのチェスト

杉本 幸子 / YUKIKO SUGIMOTO

この作品は、伊藤万由美先生から、私が学んだ集大成と言える憧れだった作品です。先生のご自宅にお邪魔させて頂いた時に、一目惚れをしてしまったチェスト。プラベートなもので、教室見本にはしないものなのよ、と仰っていましたが、私は初めての教室作品展を開催するに当たり代表作にさせて欲しいとお願いし、教えて頂きました。じっくりと時間をかけて、情熱的に作品を仕上げたことが今はとても大切な想い出です。
描きたかったアリスの作品が描けた事、念願だった教室展が出来た事は、何事にも自信がなかった私に続けていける勇気をくれました。先生のご自宅のアトリエには、JDPAのコンベンションで見つけて忘れられなかったあのアリスの作品がたくさんあり、その時の感動は、今でも昨日の事のように思い出します。先生のアリスの続きを見る事は叶いませんが、夢中で描いた大好きな作品を見て頂ける機会に参加させて頂けた事に感謝しています。

画像

灯台のある風景

鈴木 慶子 / KEIKO SUZUKI

アメリカの東海岸や五大湖沿岸には可愛くてカラフルな灯台がたくさんあって写真集も出ているほど人々に愛されています。ずっと昔のことですがケープコッド(Cape Cod)という東海岸の風光明媚な半島を旅したとき目にしたのが赤と白のこのユニークな灯台です。
「ペイントクラフト」は1997年に創刊されましたがこの作品は第2号の巻頭ページに載せていただきました。テーマは「夏」ということだったので灯台のある風景と一緒に釣り道具を描きたいと思いました。思いついたのは早かったのですが締め切りが迫る中、試行錯誤して仕上げたことを懐かしく思い出します。

画像

フィッシングツールのオーバルボックス

鈴木 慶子 / KEIKO SUZUKI

画像

出島

バルーチャ 美知子 / MICHIKO BHAROOCHA

<TOLE>と<漆器>の意外な関係を話すときに、キーワードとなるのが<出島>です。英語で漆器は<japan>。白磁は<china>。トールペイントの語源であるTOLE peinteは、<japanned metal ware>と言います。鎖国時代の日本の長崎<出島>から、オランダ東インド会社の貿易船がヨーロッパへと運び、その時代の王侯貴族を虜にしたのが、「黒い光沢」を持つ<漆器>です。
漆器への憧れは、やがて産業革命時のアスファルト加工の先駆けとなる<黒ニス>の発明へと繋がり、Tole painteが誕生したのでした。
嬉しかったのは、このようなことをお話しする機会がやってきて、福井県鯖江市にある、2005年4月にオープンしたばかりの「うるしの里会館」でのトークショーに招かれ、<漆器でトール展>にも参加できたことでした。この作品は、その時の出展作品で、越前本漆器に江戸初期の出島の様子を擬人化して表現した思い出深い作品で、お気に入りです。

画像

地球を見つめるミカエル

バルーチャ 美知子 / MICHIKO BHAROOCHA

この作品は、フラッグシリーズの一枚であり、ミカエルシリーズの一枚でもあります。テーマは、「地球を見つめる大天使ミカエル」で、戦争の無くならない地球を辛抱強く見守っています。今までに個展の際には、板絵、<うつわ>でポタリーペインティング、サンドペーパー画、ガラス絵、白磁ペイント、レザー画、布では、セオレムペインティングとして、コットンベルベットに描くなど、異なる素材に<描く>ことを提案してきました。
2006年青山にあるギャラリー「プロモアルテ」での個展では、「Peaceful Moment」として、当時日本ヴォーグ社で扱っていた、<アイロンカラー>で、幅110cm×長さ165cmの布を旗のように見立てたflag作品を発表。狭い部屋の床に布サイズに見合った段ボール枠を作り、100本以上の虫ピンで布を張り、大股になって奮闘して描いたのが楽しく、またチャレンジしてみたいと思っている染料です。

画像

BLACK BOYS(マザーグース)

古屋 加江子 / KAEKO FURUYA

掲載ボツになった思い出の作品
ペイントクラフト創刊号から連載をさせて頂いた“マイディアマザーグース”
イギリス伝承童謡『マザーグース』を毎回一つずつ選んで私なりの表現で描きました。
連載2回目に提出した“TEN LITTLE BLACK BOYS”は北原白秋訳では“10にんのくろんぼ”
“くろんぼ”という言葉と絵が人種差別に当たるのではないかとボツになった『思い出の作品』です。
急遽描き直したのが同じ内容のアメリカ版、有名な“10人のインディアン”
インディアンの方は大勢の方に描いて頂きましたが、レアな“BLACK BOYS”の存在も知って頂きたくこの2作を出品させて頂きました。

画像

TEN LITTELE INDIANS(マザーグース)

古屋 加江子 / KAEKO FURUYA

没になった “TEN LITTLE BLACK BOYS” を描き直した “10人のインディアン”

画像

ガラスのオーナメント「Silk&Suede」

深山 喜代美 / KIYOMI MIYAMA

2004年10月に開催された『第三回 世界のトールペイント展』でのブース出展時、メインディスプレイに制作した作品です。アメリカからお越しになられたSDP副会長様の目に留まり、SDP会報に掲載される運びとなりました。「ガラスとスエードの対比に注目された」とのことでした。当時、ペイントしたカットアウトを曲面に接着する為に、布やスエードを使用するのは自分でも楽しい発見となりました。

画像

オリジナルのバラ「ミヤマローズ」

深山 喜代美 / KIYOMI MIYAMA

トールペイントを始めて10年目頃に、作品を販売する機会が多くなり、オリジナルアイコンとなるようなデザインを考えていました。ある時、生徒さんの黒地のお財布に単色でバラを描いていたところ、大変好評を頂き、「先生、これ売れますョ!!」と。それを期にミヤマローズ商品販売となり、その生徒さんにはとても感謝しています。このバラの特調は細長く凛としたイメージ。描く時々の自分自身の心の持ち方が微妙に影響し変化する面白さがあります。

画像

水辺の家並み

森 初子 / HATSUKO MORI

私に教えてくれた2つの作品−1点目
「水辺の家並み」は、オランダのヒンデローペン村を描いた作品で、その周囲にはオランダのフォークアート「ヒンデローペン」を施しています。自分色をあれこれ暗中模索していた時期でしたが、心地よい色だけを選んで描いてみたら、描きたい絵や色がハッキリと見えました。テクニックよりも、好きな色で心地よく描く事が心を込める事になり、その結果想いを伝える事が出来る作品となり、個性になるのだと気づかせてくれた作品でした。

画像

スペイン・グラナダの水車

森 初子 / HATSUKO MORI

私に教えてくれた2つの作品−2点目
もう一点の「スペイン・グラナダの水車」は、初めて描く水車だったので、その構造を知るために何冊も水車の本を調べて間違いの無い様に下絵を起こす事に苦労した作品です。水車の水切り板の角度など非常に緻密で描くのが大変なのに、主役は朽ちた水車小屋に咲く名もない黄色い草花。でも、手を抜かずに描いた絵は皆さんが気に入ってくださり、報われる瞬間が訪れる事を教えてくれました。

画像

Sewing Machine

河崎 香 / KAORI KAWASAKI

手芸モチーフが大好きで、以前から小物を中心によく描いていましたが、この作品はその中でも特にお気に入りのアンティークミシンをメインモチーフに描いた、もう7年も前の作品です。元々は全て手描きで描くのが主流だったトールペイントも少しずつ様変わりし、スタンプやコラージュ、そしてここ数年はシルクスクリーンを作品に取り入れることが多くなってきました。
便利なお道具を取り入れることにより、簡単に作品をグレードアップすることができ、平均年齢が上がってきたペインターたちにとって画期的なアイテムとなりましたが、だからこそ一つ一つ手間を惜しまず時間をかけて根気良く描いていた当時の作品は、完成した時の達成感・満足感が強く、特に思い入れの強い作品と言えると思います。
ついつい楽な方に流されがちで、目も根気も衰えつつありますが、以前を振り返るこんな機会をいただけたことでもう一度「描く」ことに重点を置いた作品作りをしてみたいという気持ちが湧き上がってきました。
どうもありがとうございました。

画像

桜のキルトフレーム

出口 むつみ / MUTSUMI DEGUCHI

この作品は2006年の9月に描き、ペイントクラフト58号に掲載されました。「桜」を洋風に描いて欲しいとの要望だったため、当時とても悩んだ記憶があります。ブーケにしてリボンをつけて、フレームにはフランス語を入れました。それでも仕上がりに自信がなくて不安だったのを覚えています。
雑誌が発売になって、いつものように母に持っていくと、「これ、いいじゃない。すっごくいい」と母が褒めてくれたのでびっくり!母は今まで私の作品を褒めたことがなく、いつも手厳しい感想ばかり・・・。日頃から「あなたは、ピンクの使い方がダメ、まだまだね」なんて言われていたので初めて私の作品を気に入ってくれたことが、とてもとても嬉しかった。
あれからずいぶん経ったけれど、いまだ褒めてもらった作品は片手にもならないので「まだまだ、がんばるぞ♪」と、この作品を見るたびに思い出します。

画像

20周年記念企画

お祝いのボンボニエールのご紹介

既定のガラス素材に、思い思いのデザインやアレンジで描いていただき、メッセージを添えて作品をお寄せいただきました。
招待作品は、設立20周年の記念としてアンケートにご協力いただいた方の中から抽選で、各作品1名様にプレゼントいたします。

(アンケート締切:2023年5月31日(水))

ささやかですが、この作品展をご覧いただいた方にもペイント部門設立20周年のお祝いの喜びを分かち合っていただきたいと企画いたしました。

ぜひこちらもご覧ください。